認定!連続飲酒 WF 2017,9

 毎日目覚める時「今日こそは来ないでくれーっ!」と祈るような気持ちでした。初入院の一年ほど前から、それは日課となりました。
 その頃、診断はまだ下されていないもののアルコール依存は私の素人目にも否定しようがなく、なんとか酒が止められないものかと日々考えていました。
 目覚めの瞬間は寝ぼけているせいか、飲酒欲求はそれほど湧かず今日は行けそうな気がするものです。「よしっ、今日こそ一日酒を飲まずに過ごそう!」その決意を胸に、酒には手を出さずコーヒーを点ててみたりします。コーヒーのおかげで目が覚めると、やはりそれはやって来ます。
 当時、メンタルクリニックではアルコール依存症には触れずうつの診断をされていて、その症状がゾワゾワとやって来るのです。うつには人により色々な症状があるのでしょうが、私の場合「うっとうしい」とか「落ち込む」感覚だけではなく、身の置き場のないような原因不明な「焦り」に襲われたものです。その焦りは、酷くなるとみぞおちが痛く、(二日酔いではない)吐き気をもよおすようなものでした。目をつぶってそれに耐えていると、今度は毛を逆なでされるような皮膚感覚がやって来ます。その感覚は皮膚近くの血液が逆流するようなものでもありました。 
医者からは抗うつ剤も処方されていましたが、そうなると薬を飲んでも少しボーっとする程度で、うつ症状が晴れるものではありません。そこで悟ったのが一杯の強い酒の注入です。例えばウィスキーを一口含んで流し込むと、焼けるような感覚が食道を下りて行き、胃に到達して熱いものがジワーっと広がります。五臓六腑に染み渡るとはよく言ったものです。五臓六腑に染み渡ってしばらく待つとあのゾワゾワ感がスーっと影をひそめるのです。当時、薬としての酒がなくて我慢していたら発狂してしまうだろうと真剣に思っていました。
 そんな訳で毎日目覚めの時の決意は一時間とは持たずに一杯の酒に手を伸ばす羽目になりました。もうお分かりでしょうが、目覚めの後のゾワゾワ感は手の震えや寝汗同様酒の離脱症状でした。また入院後回復して明らかになったのですが、うつもアルコールに起因するもので、長年苦しんだ不眠症とともに断酒により改善し、原因は長年に亙る大量飲酒にあったと思われます。
 このようにうつも不眠も原因薬物はアルコールであり、特効薬はアルコールと言う厄介なことになってしまいました。苦しくて飲む、飲むので覚めた時の苦しみは増す。その結果連続飲酒という魔のスパイラルに陥って行くのは必然でした。連続飲酒の最中の酒は旨くも楽しくもなく、単なる薬物と化していました。あの血が逆流するような皮膚感覚も当時は(手の震えのような)肉体的な離脱症状かと思っていましたが、同業先輩のお話しでは幻覚の前触れだとのことでした。あの感覚が進むと、ゾワゾワが次第に虫になって皮膚を這いずり回ったりするというような想像するだに気持ちの悪い感覚になっていたそうです。私は幻覚とは無縁でアル中もさほど深刻では無いと思っていましたが、とんでも無い無知・誤解でした。
この目覚めの時の期待と絶望、これがまさに連続飲酒の連続地獄でした。断酒に必要と言われる底つき体験。連続飲酒、これを私の底つき体験と認定したいと思います。